河内前司 かわちのぜんじ
伝不詳。
登場作品
『宇治拾遺物語』
巻10-5 118話 播磨守の子さだゆふが事
大変力の強い牛を持っていた。どのくらい力が強いかというと、あるとき樋爪という所にある橋で引いていた車が落ちてしまったが、牛は踏ん張って立っていて、車に引きずられることがなかったのだった。ところが、この牛が、突然行方不明になってしまった。あちこち捜したが見つからない。そんなとき、一族の者で、阿波へ向かう途中で亡くなった佐大夫が夢に現れ、こう話した。
「自分は丑寅(東北)の隅にいて、一日に一度、樋爪の橋で苦を受けている。罪の深さで身体が大変重く、移動がしんどいので、あなたが飼っている怪力の牛を借りて乗っている。牛は、もう五日したら返します」
果たして、それから五日たって牛は帰ってきたが、大変な重労働をしたように、へとへとな様子だった。樋爪の橋で牛が怪力を見せたときに、佐大夫の霊に見つかって、借りていかれたのだろうと思われた。